語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2019-10

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[2011-07-15]  レコンキスタ  

レコンキスタ(再征服、あるいは国土回復運動)。

歴史的には特に西欧中世において、イスラム圏に征服されてしまっていたイベリア半島を、再びキリスト教国の手に取り戻そうとした動きのことを指し、最終的にそれがスペイン王国の誕生とグラナダへの侵攻によって「成功」という形で終結したことは、世界史上の一つの転換点として大きな意味を持っている。

さて、この言葉をタイトルに掲げたエロゲ作品が存在する。2007年にコットンソフトから発売された『レコンキスタ』である。

タイトルの響きからてっきり戦争が関わってくるのかと思いきや、舞台はいたって平和な現代日本の海上ニュータウン。ただしこの街は数年前の原因不明の爆発事故をきっかけに開発が放棄されて以来、住人が激減し寂れてしまった過疎地帯となっているという設定だ。そして街の学校の生徒達の間では最近「夜になると黒いセーラー服姿の少女が槍のような武器を持って街を徘徊しており、彼女に目をつけられた者は首を刈られてしまう」という都市伝説がささやかれるということろから物語は始まる。

選択肢によって4人のヒロインの各ルートへと分岐していく点はごくごく一般的なエロゲ形式と言えるが、この作品の魅力の一つは伏線の張り方にある。一つひとつのルートのインパクトは弱いかもしれないが、互いが互いの伏線になっており、徐々に物語の全貌が見えてくる様はなかなかに巧妙で、よく練られたシナリオだと感嘆の声を漏らしてしまうほどだ。

そこに加えて作品の根底に流れるテーマそのものも垣間見えるようになる。主人公は二人いるが、その一人、槙野慶吾の回想の中で、上条紅葉という少女が彼に語った言葉が印象的だ。

「私、思うんです……
 新しい何かを得るよりも、失ったものを取り戻す方が難しいんじゃないかって。
 だって失ってしまったものって、現実的には決して取り戻せないものが多いから。」


その後、紅葉と槙野慶吾は結婚し、娘を一人授かるが、その際に紅葉は他界してしまう。そのあと槙野は娘を一人で育て、彼女が9歳を迎える頃に、父子で海上ニュータウンへと引っ越してきたというのが物語スタートまでのいきさつである。そしてこの背景の中に深く絡み込んでくるのが紅葉の故郷に言い伝えられてきた“反魂の法”という死者蘇生の禁術だ。ヒロイン4人全員を攻略して開放されるTRUEルートにおいてはそれら全ての要素が結びつき、怒濤の展開を見せてくれる。

失った命を取り戻すことのできる“反魂の法”を巡って、様々な過去と、そして罪を背負った人たちの思惑が交錯する中で描かれる、人と人との絆。過ちと悲劇。それを止めることができるならば、その贖罪の先に待ち受けるものとは何か。彼らの運命は時には重なり合い、時にはすれ違いながらも、やがて一つの結末へと収束していく。

今まで僕の中ではハッピーエンドと言えば安易になりがちなイメージがあったのだが、このエンディングはそんな僕の予想を遙かに超えるものであり、ゲーム作品という一つの表現形式に秘められた新たな可能性をまざまざと見せつけられた思いである。

作中で上条紅葉の父親はふと疑問を抱く。「死者をよみがえらせる反魂の法が、禁術として封印されながらも、処分されずに受け継がれてきたのは何故だろう」と。そしてそれに対する自分なりの答えとして、彼はこう結論づけた。

「それは多分……失ったものを取り戻したいというのが、誰しも抱く願いだから。」


失ったものを取り戻す。
レコンキスタ……これこそが作品の主題。

“反魂の法”は死生観に直接結びつくテーマである一方で、あまりに非現実的な設定であるがゆえに安易な結末を招きかねない、この非常に難しい題材を、各登場人物の過去と巧妙に絡ませつつ、幾重もの伏線によって緻密に練り上げられた話の中に取り込み、これほど見事な結末に至るまで表現しきってみせた制作者の方々に、僕は心から拍手を送りたい。

1492年、歴史上のレコンキスタは確かに成功した。けれども一人の人間にとってもっと根本的な、いつの時代も、どの国でも、人々が常に失い続け、そして取り戻したいと願い続ける最も大切なものは、決して取り戻せはしない。しかしそれでも人は求め続ける。たとえ取り戻せないとわかっていても、人は迷い、悩み、時には現実から目をそらし、過ちを犯しては罪を悔い、それでも幸せになろうとひたむきに走り続けることができる。人はそうやってかけがえのない人生を築いていき、最後には幸福を求め続ける意志と心を他人に残して死んでいく。それは例えば親から子へ、そして子から孫へ、まるで受け継がれてゆく命のように。

失ったものは取り戻せない。ならばレコンキスタとは、人間の歴史の中で受け継がれ、繰り返され、そしておそらく永遠に終わることのない営みなのだろう。


■ 参考作品
・『レコンキスタ』 コットンソフト (2007)


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