語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-12

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[2014-09-07]  “きれい”と“美しい”の違い  

いつのまにか9月に入り、晩夏の涼しさが漂ってまいりました。

そして思い返せば、今年の夏もまたたくさんのアニメやエロゲに出会いました。が、この夏で一番自分の心に残った作品は、実はドラマです。

毎週火曜の夜9時の枠で放送されている『あすなろ三三七拍子』。主演は柳葉敏郎です。(ちなみに柳葉は『リング~最終章~』(1999)以来、実に15年ぶりの地上波連続ドラマ単独主演作です。)

僕はドラマやアニメについては、どの作品を観るかは基本的には前評判や内容の下調べを踏まえて選ぶわけですが、“タイトル” と “ぱっと見の雰囲気” による直感でどの作品を視聴するかを決めることも多いです。しかしこの 『あすなろ三三七拍子』 についてはその直感ですらなく、TVを付けたらたまたま1話が始まって、そのまま見続けたというパターンです。(6月末は忙しくて下調べが十分にできていなかったということの裏返しでもありますが。)

しかし、いざ見始めてみるとこれが非常に面白い設定で、一気に毎週の楽しみになりました。

主人公は妻子持ちのサラリーマン(50歳)。ある日、その勤め先の社長から呼び出しを受けます。社長はあすなろ大学の応援団OBで、その伝統ある応援団が昨今の人気の無さ故に廃部の危機にあることを憂えており、秘策を思いついたのでした。すなわち社員の一人をあすなろ大学に社会人入学させて、応援団に入らせ、団を再建させよう!と。その無茶苦茶な作戦の担い手に選ばれたのが主人公でした。戸惑う主人公に社長は次期リストラ予定名簿をちらつかせます。そこには主人公の名前が……。「首の皮一枚、ぎりぎりの温情だ。やってくれるね……?」「押忍!」。家族を路頭に迷わせないため、彼は応援団長となる決心をします。

いざ入学してみると、そこにはOBが二人待ち構えており、昔ながらの鬼のような厳しい訓練を課せられます。そして難航する部員集め。最初に入団したのは、真面目で心優しそうな青年一人だけでした。主人公は、金髪で「チース」と家に挨拶に来た娘の彼氏に対して「応援団へ入れば交際を認めてやる」と言って、無理矢理ひきずりこみます。そして極めつけは、一人の女子学生の入団でした。頭の固いOBは「伝統ある応援団に女なぞ入れられるか!」とすごみますが、彼女は毅然として対応し、入団してしまいます。実は彼女は大学の“現代フェミニズム論”の研究室から送り込まれた刺客で、そこの女教授は「男くさい応援団をぶっつぶす」ことを目論んでおり、そのための調査を彼女に任せたのでした。

この女子学生というのがシナリオ全体に重大なアクセントを与えていて、「非合理的で無意味な精神論をふりかざす暑苦しい男社会を絵に描いたような伝統的な応援団」に対して、「知的かつ合理的で男女平等を掲げる綺麗な現代社会」を、真正面からぶつける構造になっています。

先輩OBによる理不尽な罰や、「意味など考えるな!とにかくひたすら汗をかけ!」と叫びながら課される無茶な訓練に対して、主人公は「そんなことでは今の若者は付いてきませんよ……!」と反論します。しかしその一方で、OBたちが熱く語る前時代的な根性論は、現代社会がどこかに置き忘れてしまった輝きのようなものを垣間見せることがあり、主人公のみならず、女子学生を含めた応援団全体を次第に感化していくのです。

第3回の社長のセリフが、印象的でした。

「応援とは、そもそも理不尽なものなのです。精一杯頑張っている人間に対して、さらに頑張れと追い打ちをかけるわけですから。だから応援団は、とにかく、ひたすら、汗をかく。そうしなければ誰かを応援する資格などないのです。」


無茶苦茶な理論なのに、なぜか本質を突いているような気がします。

考えてみれば、もし人間がいつでも理屈通りに動けるのなら、応援なんか必要ないわけです。機械やパソコンに向かって「頑張れ!」と声援を送れば動作が速くなるかというと、そんなはずはありません。けれど、心を持った人間は、心の状態によってパフォーマンスが下がることもあれば上がることもある。応援されれば頑張ろうという気になるし、逆に頑張っている人を見たら応援したいと思う。人間が精神論をもっとも必要とする場でなされる行為、それが応援なのです。

「根性さえあればどんなことでもできる」、「物事が成功しないのは気合いが足りないからだ」。現代人の一人である僕自身、こういった精神論は正直言って好きではありません。いくら根性があっても論理的に不可能なことは不可能ですし、物事が失敗したときは筋道立てて原因を特定し、それを改善する作業が最重要です。しかし言うのは簡単ですが、実際に何かを改善していく作業というのは、えてして地味で泥臭い道のりになってしまうものです。そんな道中において人の足を進ませてくれるのものこそ、根性であり、気合いなのかもしれません。

現代社会は、どうも「きれい好き」になりすぎているような印象を受けます。教師が生徒を少しきつく叱っただけで体罰だ何だと騒いだり、子どもが怪我をするからという理由で公園から遊具がなくなったり等々、「言ってることは間違いじゃない。だけど……」と首をかしげるようなニュースをしばしば見かけます。合理的なもの、きれいなもので埋め尽くされた世の中は、逆に美しい何かが損なわれてしまっている。「きれい」と「美しい」は必ずしも同じではないのだということを、この『あすなろ三三七拍子』という作品は実感させてくれるような気がします。

以上のことは現代社会が抱えている大きな葛藤の一つだと思いますが、それを「応援団」という切り口から展開させた点で、本当に見事なシナリオだと感じました。原作は重松清の小説ですが、題材の選び方や登場人物の設定など、斬新でありながらも適確という、名作の条件を満たすものだと思います。

そして忘れてはいけないのが、役者たちの演技にも注目したい本作。主人公の柳葉敏郎の鬼気迫る演技は言うまでもなくすばらしかったですが、女子学生役の剛力彩芽も、かなり魅力的な人物を演出できていたと思います。このキャラクターの特色をここまで引き出すことができ、作品全体に深みを出すことができたのは、ひとえに彼女のおかげだと言っても過言ではありません。

次の火曜日で最終回らしいので、楽しみですね。


■ 参考作品
・『あすなろ三三七拍子』 フジテレビ (2014)


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