語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-08

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[2014-11-28]  潮あるいは汐  

アニメに何を求めるかは人によってそれぞれ異なると思います。

が、大まかには次の2通りの視点に分けることができるかもしれません。すなわち「絵はわりとどうでもいいけど、とにかく面白い話が見たい」という意見と、「話は平凡でいいから、綺麗な絵が動いているのを見たい」という意見です。もちろん、人によってどちらかはっきりと決まるというものでもないでしょう。僕自身、何となく前者の気分の日もあれば、後者のように思う日もあります。

しかし世の中には、両方の要望を一度に満たす作品というのも存在します。

要するに「話が面白くて、絵も美しい」というアニメです。絵の美しさにもいろいろありますが、特に物語舞台の背景の繊細さ・緻密さという点で捉えるならば、ちょうど昨年の今頃放映していた『凪のあすから』という作品を思い出します。近年の傑作としては一番の候補に挙がるかもしれません。


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都会から少し離れた風光明媚な海辺にある街「オシオオシ」と、そのすぐそばの海底にある村「シオシシオ」。

その海底の村には古くから、水中でも自由に呼吸できるエナという特殊な皮膚をもった人々が生活しており、独自の文化を築いていた。『凪のあすから』は、そんな海の村シオシシオで生まれ育った4人の少年少女が、陸の街オシオオシの人々と交流しながら成長していく過程を綴った物語であるが、その中で村の掟や大人どうしの対立、そして子どもたちの友情や淡い恋愛感情などが幾重にも絡み合い、一筋縄ではいかない人間模様が描出されている。

また村に伝わる“海神様”信仰が、やがて具体的な現象を伴ったものとして主人公たちの運命を翻弄し、独特のファンタジックな世界観の中で「変わること」「変わらないこと」という人間にとっての大きなテーマを象徴的に提示するとともに、一方では登場人物一人ひとりの小さな心情の機微を丁寧に表現する、その大小のコントラストがまさしく寄せてはかえす潮のように見る者の心を揺らし、惹きつける。優れたシナリオと美麗な背景絵画とが調和した傑作であると言えよう。

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まあ「お前は何様なんだ」という感じの偉そうな口調になってしまってるわけなんですが、あえて批評を付すならばこんな風になるんじゃないかという一例です。やはり何と言っても「心情描写」が素晴らしいと思います。

P.A.WORKSのアニメ作品はどうしても「背景がきれい」という特徴で捉えられてしまいがちで、たしかにそれは事実なんですが、それ以上に登場人物たちのちょっとした言葉や仕草に彼らの感情を仮託する、という表現方法が非常に巧みだと個人的には思っています。「アニメなのに、優れた文学小説を読んでいるような感覚」というと伝わりやすいでしょうか。

特に2007年の『true tears』は凄まじかったですね。心情描写という点においてあれ以上の完成度を誇るアニメにはいまだに出会えていません。一つの究極系だったと思いますが、それを第一作で弾きだしたというところにP.A.WORKSという制作会社のすごさを感じます。風景が綺麗なアニメは他にいくらでもあるんですが、『true tears』は何というか意味のある綺麗さで、しかも満遍なく丁寧なのではなく「ここぞ」というときに存分に表現する、その引いては押し寄せる波のような感覚が、作品を見る僕の揺れ動く心の波長とぴったり合致して、ある種の共鳴現象のようなものが起きたのではないかと解釈しています。

が、2013-2014年の『凪のあすから』は心情描写以外にもシナリオ全体のダイナミズムを大きくした、つまり有り体に言えば「話を面白くした」という点で、新しい完成形だと言えると思います。特に後半部、物語が大きく動き出してから「次の話が気になって待ちきれない」という感覚は、名作アニメならではの情緒です。

同じく2014年の『グラスリップ』もP.A.WORKSの中ではこれらの作品と同系統でしたが、これはどうにも売り上げが伸びず、ネット上でも不評でしたね。僕自身としてもやはり何かが足りなかった作品という印象です。まあその何かというのは「辻褄」という一言で表現できるのではないかとも思いますが……。背景描写は非常に綺麗でしたし、true tearsを踏襲した止め絵演出も(滑ってたという声もありますが)僕としてはそれなりに生かせてたんじゃないかと思います。心情描写も奥ゆかしいものがあり、「アニメなのに、優れた文学小説を読んでいるような感覚」はこの作品でも健在だったと言えるでしょう。ただ、話の意味が今ひとつ掴めなかったのが惜しいところで、それが評価にも響いてしまったかなという印象です。この反省は生かしつつ、今後もぜひこの方向性の作品をつくってくれたらと期待します。

「話が面白くて、絵も美しい」という、バランスの取れたアニメ作品がこれからも増えてくれたらいいですね。(もちろんどちらかに特化型の作品も大事ですが。というか大抵は予算的に片方しか……ゲフンゲフン)


■ 参考作品
・『凪のあすから』 P.A.WORKS (2013-2014)


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