語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-12

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[2013-02-27]  100時間の果てに  

僕はあくまで物語を求めてエロゲをやっているので、システムとしてはいわゆる“紙芝居”以上のものはそれほど求めません。むしろあまりゲームとして凝っていると身構えてしまう傾向にあります。ですが、ゲーム性に夢中になって全力でプレイしたエロゲというのも存在します。

その一つであり、シナリオとしても一級品であった作品こそが、戯画の『BALDR SKY』です。

そもそも戦闘系のエロゲは昔から存在し、RPG、アクション、戦略シミュレーション等々、女の子と戦って、勝利した“ご褒美”としてHな画像が・・・という古典的なエロゲも多くあります。しかし、戦闘系エロゲのスタイルも時代とともに多様化が進み、あくまでシナリオが中心で、そこに敵との戦闘シーンが挟まれ、勝利することで話が進んでいく、というタイプも生まれてくるわけです。そこではエロ要素は戦闘と直接関係なく、むしろシナリオに深みを与える描写の一つという位置づけで、比較的あっさりたものになります。例えるならば映画におけるベッドシーンのようなものです。

『BALDR SKY』は「サイバーパンクアクションアドベンチャー」であると制作者側は銘打っており、実際に見事なサイバーパンクでした。日本ではサイバーパンク系作品は少ないものの、僕が知る中では冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』や士郎正宗の『攻殻機動隊』が傑作として印象深かったが、この『BALDR SKY』もそれらに肩を並べるほどの完成度を誇る作品だと、胸を張って言えるほどです。

あらすじは以下の通りです。公式HPやWikipediaよりは多少詳しく書いてみます。


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AI(人工知能)の技術が進み、コンピュータを発達させた機械論的AIと、自己進化の中で偶発的に知能を獲得した生体型AIとの間で「知性化競争」が起こり、結果として後者がAIの主流となった時代。AIの生み出す仮想空間には人間も接続することができ、人々は「現実」と「仮想」の両方で生活するようになっていた。

主人公の門倉甲が目を覚ますと、そこは仮想空間の戦場だった。さっきまで学園生活をしていたのに、いきなりどうしてこんな場所にいるのかと状況が込めない主人公に、敵が襲いかかる。その時、援護に来きた霧島レイン少尉の説明により、門倉甲は自身が傭兵部隊の中尉であること、そして先ほどの衝撃により、学園時代から現在までの記憶をなくしてしまったことを知る。それでも身体に染みついた戦闘感覚によって何とかその場を切り抜けた甲は、レインとともに街の名医のもとを訪れ、記憶を修復するナノマシンを処方される。それにより学園時代の記憶を少しとりもどすが、完全な回復にはもう少し時間がかかるという。

レインから、甲は傭兵として戦いながら「ドレクスラー機関」と呼ばれるナノマシン研究者たちを追っていたことを知らされるが、彼にはその理由がまだ思い出せない。そもそも、彼は学園生の時点では、父親と同じ傭兵には絶対になるまいと決めていた。家庭を顧みず、母の危篤時にも姿を見せなかった父を恨んでいたのだ。そんな自分が、どうして傭兵になってしまったのか。何の為にドレクスラー機関を追っていたのか。欠損した記憶にためらいながらも、過去の自分の通信履歴に残っていた情報を頼りに、彼はドレクスラー機関の追跡を継続することを決める。

しかしそんな最中、甲はとうとう“あの日”のことを思い出してしまう。自分が通っていた学園の近くで発生した、“灰色のクリスマス”と呼ばれる大規模災害。第二世代ナノマシンが暴走し、施設外に漏れ出し、周囲を汚染する事態が発生した。その被害を最小限に食い止める為に、地球統合政府の対地射撃衛星群(グングニール)の集中砲撃によって、街一つが丸々焼かれ、灰燼と化した。そしてその“灰色のクリスマス”で、甲は最愛の恋人「水無月 空」を失ったのだった。

甲が自分自身の過去を取り戻していく一方で、事態は急激に動いていく。統合政府と反統合政府派の確執、AI派と反AI派の争いに加えて、悲劇を起こした第二世代ナノマシンの研究が今も水面下で続けられているという情報により、清城市は様々な勢力が介入し、二重三重に火花を散らす。夢に溢れ、面倒見の良かったかつての恩師が所属しているドレクスラー機関。統合政府のGOAT(統合軍対AI対策班)、清城市のCDF(都市自警軍)。AI関連の事業を牛耳る巨大企業アーク・インダストリー。甲の父親、門倉永ニが率いる傭兵部隊フェンリル。AIの生みの親、ノインツェーン博士の遺志を受け継ぐと主張する教義で信者を増やし勢力を増す教団ドミニオン。そして仮想世界で要所要所で現れては謎めいた言葉を残して消えていく、「水無月 空」と同じ姿をした少女「エージェント」。

三者三様どころではない、入り乱れた勢力図の中で、門倉甲は自身が何をするべきかを見出していく。失われてしまった「空」、そして今はもう戻ることの叶わない楽しかった学園生活の記憶だけが徐々によみがえるむなしさ。しかしその先に、自分が戦う意義があると信じて、彼は進む。

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この作品は大きく分けて6つのルートがあり、主人公の選択によってどのルートになるかが決定されます。そのうち5つは、「ありえたかもしれない世界の可能性」を提示したものとなっていますが、最後の1つは他より高次に位置し、これまでの5つのルートを俯瞰・観測するシナリオとなっており、今までのあらゆる伏線が回収されていきます。

主人公が失った恋人の名前であると同時に、物語そのもののタイトルでもある最終章・「空」へ向かって、全てが収束していく様は、見事でした。

この作品のシナリオの魅力を列挙するとなるとキリがないですが、他作品にない大きな特色を挙げるならば、以下の2点だと思います。

(1)
人工知能(=AI)が発達した未来において、「人間 vs AI」とか「生物 vs 機械」という対比構造にするのはよく見かける設定ですが、この作品においてはそうではなく、AI をさらに「生体型AI」と「機械論的AI」の2種類に分け、知性化競争の果てに「生体型AI」がAIとしての主流となった、という歴史を描いていることが最大の特徴です。つまり同じAIの中で、すでに生物寄りの存在と機械寄りの存在が争い、結果として前者が勝利し、独自の思考体系およびクオリアを獲得し、人類と友好関係を築いているという世界です。しかしAIそのものを良く思わない反AI派の人間がおり、彼らがAIを倒すために目を付けたのが、かつて知性化競争に敗れて過去のものとなっていた「機械論的AI」=「バルドル」であり、これが作品タイトルにつながります。

(2)
上記の「生体型AI」が互いの通信において量子論的手法を用いる関係で、事象の並列処理、さらに言うと並行世界との交信を実現している点も、注目に値します。もちろん並行世界モノは今では珍しくないですが、並行世界の存在、あるいはその世界同士が互いに及ぼす影響を、ある程度の論理的説明を付けながら、物語設定およびゲームシステムそのものにここまで深く絡めて描いている作品というのは、なかなか無いと思います。

ただ、仮にこういう点を全部抜きにしても、純粋に面白かったし、涙がにじむほど熱い物語だった。それが 『BALDR SKY』 の一番の魅力ではないでしょうか。最終決戦にてOP曲「jihad」が流れてきた時の、あの熱情と興奮は忘れられません。タイトルの『BALDR SKY』の由来がわかるシーンの演出も鳥肌物でした。

また最初に書いたように、戦闘部分が楽しいのもポイント高いです。自分なりに使いやすい武器のコンボを見つけた時の嬉しさとか、それが決まったときの爽快感とか。それに自分で戦闘すると、シナリオに感情移入できる度合いも全然違ってくるわけです。他のエロゲでは戦闘シーンがあっても、文章なのでどうしてもリアリティに欠けて、「あー勝ったのねハイハイ」みたいになってしまいますが、自分が苦労してボスを倒したあとのシナリオは「勝ったぞー!!」というテンションで読めます。意外とこれが大きいんですよね。

普通のエロゲを普通にやると、僕はだいたい10~20時間くらいで終わります。長いものでも30時間、文章量があまりに多すぎることで有名な「Fate/stay night」は、50時間ほどかかりました。が、『BALDR SKY』 の僕の総プレイ時間は、ほぼ100時間だったのを覚えています。世間的には平均90時間程度のようですが、戦闘関連でいろいろやりこんだのでそれでちょっと延びたのかもしれません。しかし世の中にはもっとやりこんでいる人もいるようなので、頭が下がります。シナリオとしても、ゲームとしても素晴らしい作品でした。


■ 参考作品
・『BALDR SKY』 戯画 (2009)


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