語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-05

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[2012-07-16]  雨と音楽の物語  

自分はどうも“音ゲー”には向かない人間らしく、特段下手なわけではないと思うが、人から勧められて始めてもすぐに興味がなくなってそれっきりということが多い。ただしシナリオ性をあわせもったものならば別である。美少女ゲームであり、なおかつ音ゲーでもあるという作品がある。工画堂スタジオによる名作、『シンフォニック=レイン』だ。(非18禁なのでエロゲではない。)

ヨーロッパの音楽学校の学生が主人公であり、音ゲーはむしろその趣旨に合わせたオマケ要素なのだが、これが意外と良くできていて、やりこみがいがある。しかしやはりこの作品の要はシナリオにある。それもかなり傑作の部類である。少々暗いながらもほのぼのした恋愛シミュレーションかと思いきや、後半はなかなか予想できない展開が待ち受けている。

この作品において中心点をなすのは、なんといっても「音楽」だ。 それは物語の舞台が一年中雨が降り続ける「音楽の街」である、というのもさることながら、 物語中で主人公たちが奏でる音楽、あるいは作中流れてくる静かなBGMが、 原画担当しろさんによる柔らかいタッチのキャラクター絵と背景にうまく調和している点が大きい。 穏やかでありつつも、どこかもの悲しい雰囲気。さらにはその音楽を通して、 素朴でありながらも、何かにとらわれ悩みを抱え続ける登場人物たちの心情を繊細に描き出すとともに、読者の心中に深い共感を喚起させる、その表現力。『シンフォニック=レイン』という作品は、それを抜きにして考えられない。

この物語は、重くて暗い。年中降り続ける雨。そしてその雨音。それらは主人公たちの心情を象徴していて、 物語を読み進めていくと自分まで気分が沈んでくる。「ただ生きることが、どうしてこんなに辛いのか」 「どうしてこんなにも様々なものにとらわれていて、不自由なのか」 登場人物の視点にたつと、そういう苦悩が自分の心にも流れ込んでくる。

だが、こんなにも暗い雰囲気が漂う中で、この物語にはどこか不思議な温かさがある。 絶望の雨に包まれながらも、完全に浸りきることはない安心感がある。なぜならば、そこには音楽があるからだ。 岡崎律子さんの作った曲が、彼女の音楽が、読者に安心感を与えてくれる。 それはひと言で言えば「救い」であると思う。 読者にとってだけではない。物語に登場する彼らにとっても、 きっと音楽は救いだったのではないだろうか。

「音の波の中にいる時は、あらゆるものから束縛されることがない。心地よい歌声を肌でも感じ、頭の芯までもが波に揺られるような感覚に全てを任せる。」


悲しさを象徴する雨と、救いを象徴する音楽。 また、雨はときに主人公と周囲の距離を示す壁ともなり、 一方で音楽は主人公と周囲を結ぶ橋となる。 作中において、雨と音楽は実に対照的である。 けれどそんな2つが織り交ぜられたところに、この物語は紡がれるのだ。 手放しで喜べるエンディングは一つもない。 だが、どのエンディングにも意味はある。 この作品に対して結末の良し悪しや、ハッピーエンドを安易に求めるのはナンセンスだろう。ある者にとってのハッピーエンドが、他の誰かにとっては残酷なこともある。 それを意識しなくてはならない。 いろんな視点から、いろんな人間の心情を考えることで初めて、 それらの結末は深みを帯びる。そういった作品の奥行きにじっくりと思いを馳せることが、この「雨と音楽の物語」の味わい方なのだろうと自分は思う。


■ 参考作品
・『シンフォニック=レイン』 工画堂スタジオ (2004)


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