語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-12

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[2013-12-03]  えろげうたは人の心を種として  

日本の古典には「百人一首」というものがある。

最も有名なのは藤原定家による「小倉百人一首」であるが、これはいわば飛鳥時代から鎌倉時代までの100人の歌人の優れた和歌を、一首ずつ選んだものである。

これに一度でも触れた人は分かると思うが、とにかく「恋の歌」が多い。和歌全体の中でも恋歌は実に圧倒的な割合を占める。

一方で、現代のJ-POPの歌詞を見てみよう。……その状況はまったく同じである。千年という時を経て、社会体制も世界の常識もこれほど変わってしまったのに、人間の本質的な部分はあんまり変わっていないというのは滑稽だが、同時に我々にどこか安心感を抱かせるものがある。

しかし、百人一首には「恋」以外の歌ももちろんある。

・のどかな春の陽光の中で散っていく桜を惜しむ歌
・ほととぎすが鳴いた方角に夜明けの月を見た夏の歌
・秋の川を散り流れる紅葉の華麗な情景を詠んだ歌
・富士山に白く雪が積もる様を冬の海岸から見上げた歌

こういった「春」「夏」「秋」「冬」の歌も多く、さらには季節に関係なく情景や心情を綴った「雑歌」など、実はけっこうバリエーションに富んでいるのが、この小倉百人一首の魅力と言えるかもしれない。

では、現代の邦楽にそういった純粋な叙景詩があるかというと、もちろんあるにはあるのだが、かなり限られている上、地味な内容になって、結局あまりヒットしない傾向がある気がする。「昔と違って歌詞が長いから」というのも大きいかもしれない。和歌の中でも、情景描写はある一瞬の感動を捉えるものが多い。(逆に恋愛要素は物語性によって深みが増してくる面がある。)

しかし僕は、百人一首にあるような、季節の自然を描いた歌、春夏秋冬の情緒を心の奥底から呼び起こしてくれるような歌、あれがすごく好きなのだ。現代でそういう歌に出会えないものか……。

そこで、エロゲソングである。

エロゲソングの魅力は、一概には表現しにくいのだが、あえて言うならば「物語性があること」だと僕は思っている。この点が大前提として保証されているからこそ、自由な表現ができる。つまりは「物語の背景を構築する」という目的に邁進できるのである。エロゲソングは、この「自由さ」を武器に、一般の邦楽ではなかなか表現できない情景を我々に見せてくれるのではないか。千年もの昔から我々が詠みつづけてきた素朴な感性が、そこに再現されているのではないか。

……と、書くと大げさであるが、エロゲソングにはたしかに、季節感が込められた情緒ある歌というのが結構たくさんある。その中でも僕が特に一押しの歌が、これだ。



曲名:Aozora
歌手:Duca
作品:RUNE『Purely ~その狭い青空を見上げて~』より

Ducaさんの美しい声についつい聞き惚れて歌詞の内容が頭に入ってこないほどであるが、しっかりと聞いてみると、これがなかなか味わい深い歌詞なのだ。

まず秋の歌であるのに、タイトルおよび歌い出しが「青空」であるという点にやや意外性がある。ただ、もちろん秋でも青空は見られるものだし、“天高く馬肥ゆる秋”とも言う。秋のあの透き通るような高い空がすぐさま脳裏に浮かんた方も多いだろう。

だが、歌詞をたどっていくとすぐ後に「低い雲」と出てくるのだ。さらに「雨の忘れ物」と続く。この意外性だ。つまりあの一面に晴れ渡った典型的な秋空ではなく、雨上がりの、どんよりとしてちょっと憂鬱な、しかしふと垣間見えた青空が世界の唯一の色彩であるかのような、そういう景色を二人で見ていたという歌詞から始まるのである。

本来広くて高いはずの青空が、低くて狭い。けれどもその狭い青空は二人を楽しませてくれる。それを描くことで、秋の情感が青空とその二人の周囲を中心に凝縮されるような感覚を生みだすのである。どこか閉鎖的で、どうにもならない悲しさや不自由さをまとった空。しかしその中にあっても美しいものを紡いでいこうとする切実さが、秋の澄んだ空気感とともにひしひしと伝わってくるような、そういう歌詞だ。

これはもちろん作品サブタイトルの「~その狭い青空を見上げて~」にも通じるものであるし、作中のシナリオにも重ね合わせることができる。これも結局は言ってみれば恋の歌ではあるのだが、それだけで終わらずに作品本編との共鳴によって深まる壮大な物語性と、そして何よりそれを引き立たせる秋の情緒が歌詞の随所に散りばめられているところが、実に芸術的である。

ただ、上に貼った動画では1番のみだが、秋の情景描写が光るのはむしろ2番の歌詞のほうである。著作権的にあやしいのでここに歌詞をそのまま掲載することができないのが口惜しいが、この歌は2番こそが真骨頂であり、言葉の美しさに見とれてしまうほどなのだ。興味のある方はぜひ自分で調べてみてほしい。

元作品『Purely ~その狭い青空を見上げて~』のシナリオも、ややご都合主義なところはあったが、日常とシリアスがどちらも綺麗にまとまっており、また素直に感動できる物語だった。個人的にはかなり好きな作品だ。今でも秋のエロゲというと、この作品が真っ先に思い出されるほどである。

秋は物思いの秋でもあり、昔から和歌に多く詠まれてきた季節でもある。(百人一首でも春9首、夏3首、秋20首、冬7首と、秋が圧倒的に多い。)にも関わらず、秋のエロゲというのは四季の中で最も数が少なく、結果として秋のエロゲソングもまた珍しい存在になってしまっているのは若干寂しいところである。けれども時々こういった名曲と名作が出てくるあたり、秋という季節に秘められた何かしらの情緒が、人の心に働きかけているような気がして面白い。



■ 補足
ちなみに冒頭のほうで述べた四季それぞれの和歌は、順に以下の通りである。

・ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ (33番、紀友則) 
・ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる (81番、後徳大寺左大臣)
・ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは (17番、在原業平朝臣)
・田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ (4番、山辺赤人)


■ 参考作品
・『Purely ~その狭い青空を見上げて~』 RUNE (2007)


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