語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-08

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[2014-07-17]  悪×討論×ループ  

もはや時間が繰り返す「ループもの」というジャンルの物語は出尽くしたのではないかという空気が漂っている昨今ですが、どうやらまだ開拓の余地が残されていたようです。

2013年発売のエロゲ、『ギャングスタ・リパブリカ』。「悪」×「討論」×「ループ」という通常全く結びつかないような3要素を掛け合わせて料理してしまった、いわば異色の名作でした。


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主人公・時守叶は、幼少時から一つの信仰を持ち続けていた。それはある日、ある男が彼に語った「悪が世界を変える」という言葉だった。彼は自ら「悪」になりたいという願いを抱き、それゆえに周囲の人間との間にいつしか心理的な隔絶が存在するようになっていた。

そんな時、彼の前に一人の少女が現れる。

「ガラクタが……あるのね?」

夕日を背にして彼女は語りかける。

「人とは違う何かが、心の中に。
みんなが捨てていったものが、捨てられないのね?」

あなたの願いを言って、とほほえむ少女に、時守叶は自らの心を打ち明ける。

「悪の組織は、作れますか……?」

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と、最初から読者を置き去りにせんばかりのスーパー展開で話が進みますが、このあと主人公とその少女は自らの通う学園の中に“ギャング部”という部活を創設します。それこそが、「ギャングスタ・リパブリカ」(悪党どもの共和国)。

ギャング部は「邪悪であれ」をスローガンに掲げ、主人公の持つ「悪」の思想を体現することを目的として活動を開始しますが、そこには一人一人違ったガラクタを心の中に抱えた部員たちが集まります。極めつけは凛堂禊という転校生の少女で、彼女は「救世主」として「衆生を救済する」ことを目指していると語り、一見して悪とは正反対の信条を持った彼女も、主人公の悪の思想に興味を示してギャング部に入部します。

しかしてギャング部の実際の活動は、「木の上から降りられなくなってしまった猫を助ける」「学園創設者の銅像をピカピカに磨き上げる」など、あまりにも小規模でかつ善的な行動ばかりなのが面白いところです。しかし主人公は「野生に人間の手を介入させることによって動物を甘やかし、結果として環境への適応力を奪う。なんと邪悪だろう」「学園の偉い人の銅像にモップをごしごし擦りつけてその名誉に傷をつける。この上ない邪悪だ」といった調子で、それらを「悪」として積極的に行っていくのです。

「人がそうしたいと思うのとは違うやり方で、人がそうなりたいと思うことを実現すること。」


主人公は悪をそのように定義しているがゆえに、普通の人が善だと思うような小さな行為も自らの悪の道につながるものだと信じているのです。ところが、ギャング部の親睦が深まるにつれ、部員同士の価値観の違いも浮き彫りになり、やがてガラクタとガラクタの衝突を生みます。しかしそれを感情的なものとして描かず、あくまで冷静な「討論」を繰り広げることがこの作品の特徴です。そのあたりがリパブリカ(共和国)なのでしょう。

通常のエロゲであればA、B、C、Dの4人のヒロインがいれば、それぞれを攻略する4ルートが存在するのですが、この作品は「AvsB」「AvsD」「AvsC」「BvsC」「BvsD」「CvsD」の6ルートが存在します。つまり、異なる思想をもつ登場人物どうしが1対1で互いの意見をぶつけあって議論するため、その組み合わせの数だけ物語が存在するのです。これはエロゲの中でもかなり斬新な形式です。しかも、その議論には明確な決着は付きません。ディベートの中で互いの価値観に対する理解を深めるものの、一方が他方に譲歩することはなく、その先の判断は読者自身にゆだねられます。悪とは何か、救済とは何か。哲学における「ソクラテス式問答法」をエロゲで表現した試みのようにも思えます。

しかしこの作品にはもう一つひねりがあって、人間誰しもが当たり前のように「ループ」するという、これ単体でもきわめて斬新と言える世界設定です。この世界の人間にはウルク器官という特殊な器官があり、その働きによってときどき自分の意思とは無関係に一定の時間を何度かループしてしまうというのです。そしてどの人間にも固有の「ループ周期」があり、通常は1~48時間程度であるにもかかわらず、主人公は「631時間15分」というかなり長めのループ周期を持っていることがわかります。ループ周期の長いものは他者への強い干渉力を持っているのですが、これは物語の後半においてシナリオに深く絡んできます。

そしてループ周期と密接な関係を持っている設定として描かれるのが、「ヒッパルコスの天使」なる者の存在です。それは世界における唯一の超越的存在であり、「天使は人間の中から生け贄を選び、その生け贄はループが奪われるが、その代わりに世界に安寧がもたらされる」という説明がなされるものの、作品内では結局最後までその正体についての具体的記述はありません。

しかし、主人公が「天使がなぜ生け贄を必要とするのか」について独自の仮説を語るシーンがあります。それはもしかしたら「悪になりたいから」なのではないかと。

「よくよく考えてみれば、神みたいな超越的な存在は、立場が立派になればなるほど、簡単に天候を操ったりできないはずだ。なぜなら、そこにはどうしても偏りが発生してしまうから。天候の変化が、ある者には利益をもたらしたとしても、他の者には不利益をもたらすかもしれない。そんなことを考えるならば、簡単に天候など操作できない。超越的存在は公平でなければならないからだ。しかし、悪は違う。悪ならば、不公平や偏りなど意に介さず、批判に動じることもなく、人助けを行うことができる。公平を追及するあまり、自縄自縛に陥ったりすることはない。」

「そんな、行動の自由を得るためにこそ、天使は生贄からループを奪うのだ。」


この主人公の台詞は、悪の反対である「正義」を突き詰めて描いた『Fate/zero』の、あの壮絶なラストシーンとも呼応しているような気がします。正義を極めることと悪を極めること、その二つの道は結局は同じ境地へと連なっているのかもしれません。

シナリオライターの元長柾木氏は、ウィトゲンシュタインを軸とした哲学的なエロゲを作ることで有名な人です。今回はウィトゲンシュタイン要素はあまり無かったですが、「悪」×「討論」×「ループ」をうまく重ね合わせた完成度の高い作品だったと思います。エロゲのシナリオで尖ったものがめっぽう減ってしまった昨今において、元長氏のように独自路線を突っ走ってくれる存在は本当に貴重です。まさしくこの作品に描かれていた「悪のヒーロー」のようです。是非これからも突っ走ってほしいですね。

僕もこれからはひとつ「邪悪であれ」という思想で生きてみたいと思います。

エロゲをする。なんという邪悪な行動だろう……ククク。


■ 参考作品
・『ギャングスタ・リパブリカ』 WHITESOFT (2013)


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