語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2019-10

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[2018-09-25]  和歌に負けないアニメソング  

日本が誇る文化である和歌には多くの修辞技法が存在しますが、僕は「序詞(じょことば)」と呼ばれるものが個人的にとても好きです。

序詞の代表例として、百人一首にも選ばれた柿本人麻呂の次の歌が有名です。

「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝む」
(山鳥の長い尾のように、長い長い夜を一人で寂しく寝るのだなぁ。)


この歌の本質は「長い夜を一人寂しく寝る」というだけなのですが、その“長い”を導く言葉として「山鳥の尾の長さ」を持ってきている。これが序詞です。

そのように聞くと誰にでも使えそうな簡単な手法ですが、実はこの歌が名歌と評されるゆえんは、「山鳥のオスとメスは夜は別々に過ごす」という背景知識があることを踏まえていることにあります。

要するに、ただ単に「長い」を表現できれば何でもいいのではなく、あくまで歌全体に深みを持たせる序詞を選び抜かねばならないのであり、そこでセンスが問われるわけです。

ただ、残念なことに現代の歌謡には流石にそこまでの修辞技法は存在しない……と諦めることなかれ。

今夏に第2期も放映されていたアニメ「One Room」。その第1期の主題歌で、M・A・Oさんが歌う「春待ちクローバー」という曲があります。




注目するべきはサビの部分。

 目の前の扉をあけたら春風
 鳥たちも木々で待ち合わせ
 君へ向かう信号は青空色 駆け出せばいい


の歌詞が見事に“序詞”になっていることにお気づきでしょうか。

・君と待ち合わせしていて、そこに向かっている。
・道路の信号が青色になって駆け出していく。

というのがここの部分の本質ですが、「待ち合わせ」を導くために「鳥たちも木々で待ち合わせている」という風景を描き、さらに「青色」を導くために「青空」を埋め込んでいる。そして序詞として用いたそれぞれの表現が、歓びに満ちた春の風景を示唆しており、さらにその春の歓びは、信号が青になった嬉しさにもつながているのです。

伝統的な和歌に負けないほどの、実に情緒的な歌詞ではないでしょうか。

さらにはこの続きの歌詞も面白く、

 ウソつき確率論とか 1+1が無限とか
 教えてくれた君と探しに行こう
 春待ちクローバー


の“ウソつき確率論”というのは一体何だろうか、というのも想像が膨らみます。

後ろに“1+1が無限”という言葉があることから「二人の可能性は無限大」的なニュアンスが想起されますが、 曲名が“春待ちクローバー”ということを鑑みると、一面のクローバーの中から四葉を引き当てる確率はとても低いけれども、君とともに歩んでいく道では幸せは100%見つけられる、のような意味も含んでいるかもしれません。

内容自体は単なる恋愛ソングですが、表現に二重三重の深みがある素晴らしい歌だと思います。メロディも聞きやすく、まさしく現代の名曲です。


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