語りえぬものはかく語りき

柾葉進の徒然なる随想ブログ

2018-12

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[2011-12-03]  成長と絆  

エロゲにとって季節感というのは結構重要で、それを上手に生かせている作品には良作も多い気がする。今日のような冬の日に振り返るにふさわしい作品を一つあげるならば、PULLTOPの『ゆのはな』であろう。サブタイトルにも"heart-warming fairy tale"とある通り、心温まる作品だった。

とりあえず、まずは話を振り返ってみたい。主人公の草津拓也は大学の冬休みにバイク旅行の途中、片田舎の「ゆのはな町」の付近を通るときに交通事故を起こしてしまうが、そこの土地神である「ゆのは姫」に命を助けられる。そして拓也は事故の際に壊してしまった彼女の祠の修繕費(?)を稼ぐために、ゆのはな町にしばらく滞在し、バイトをする中で様々な人と出会っていく。

ありがちというか月並みな設定ではある。特にゆのは姫、つまり「土地を守る神様がいる」という世界観は、非現実的な要素を含みながらもそれほど珍しい設定ではない。最初このゲームを始めた時は「もう少し斬新さが欲しいな」とも思ったほどだ。また、拓也が町で過ごすに際して、本来神であるゆのは姫は人間の姿(というか幼女)となり、周囲には「拓也の妹」と言って彼とともに生活していくわけである。こうなると、話の最後としては「ゆのは姫は神としてあるべき場所に帰らねばならず、主人公や町の人々とも別れなければならない」という展開になることは目に見えているし、実際そうなった。そういう点では、やはり話の筋が月並みであったことは否定できない。

しかしながら、興味深い点として「拓也が町にやってくる60年前にも、同じように町にやってきた青年がおり、その時にもゆのは姫は彼の妹としてふるまい、町の人々とともに生活していた」という事実がわかる。それから60年ぶりに町に姿を現したゆのは姫は、その青年が数年前にこの世を去ってしまっていたこと、また当時一緒に遊びまわり、今はすっかり年老いてしまっていた友人らが自分との思い出を忘れてしまっていることを知り、悲しむ。

それは永遠に年を取らない、そして人間の記憶には残らないという神としての運命ゆえの憂愁を描いている。もともと陽気な性格で、普段は明るく振る舞っている彼女だけに、そういった心情の翳りはより印象的なものとして、読む人の心を打つと言える。また、当時ゆのは姫と一緒に遊んだ友人の一人である「渋蔵」という人物が、本来忘れているはずの彼女に関する記憶を思い出すシーンも感動的である。そして何より物語の最後で、ゆのは姫がいよいよ町の人々に別れを告げる場面で「満ちる季節」というBGMが流れるのだが、これが素晴らしい曲。予想された結末でありながら、それでもどこか心に響く感動を与えてくれるのは、やはり優れた音楽および演出のなせるわざである。

このゲームの場合、結末に至るまでの日常的なシーンが比較的丁寧に描かれていて、また登場人物もみな個性的なので感情移入しやすく、そのぶん結末での感動も増す。このこともこの作品の魅力の一つであろう。

僕が美少女ゲームあるいはエロゲを評価する際には「登場人物たちの人間的成長をいかに描くか」を一つの大きな基準としている。では今回の作品はどうだったか。

無論、あくまで恋愛ADVゲームであるから、主人公の拓也は町で出会う少女たちのうちの誰かと恋をしていくわけで、その恋の発展に沿って物語は進んでいく。攻略できるヒロインは3人いるが、彼女たちはみな、それほど重い過去を持っているわけでも、何かにひどく悩んでいるわけでもない。「登場人物は何か大きな苦悩をかかえていて、それを乗り越えることで成長していく」というのが、key作品をはじめ多くのエロゲに見られるパターンだが、この作品においてはそれほどの深刻さは見受けられない。

特に主人公の拓也については、物語中で彼自身が人間的に成長するような瞬間はほとんど無いに等しい。彼は物語の最初から人格がしっかりと決定していて、旅好きであり熱血漢であり人生経験も豊富なほうである。だから彼自身が成長する余地はあまり無いとも言える。そして、どちらかというと彼は「日々の生活や将来に対して小さな不安を持つヒロインを励ます」という位置づけで、他人の成長の支えになっていく風に描かれている。

その“成長”というのもあくまで日常的なもので、登場人物たちの心境にに何か劇的な変化が起こるというものでもない。この作品において焦点が当てられているのは、個々人の成長というよりも、むしろ人と人との“ふれあい”という側面であろう。

小説であれエロゲであれ、どのような物語にも“成長”という要素は欠かせないというのが僕の持論であるが、人間どうしの“絆”をどう描くかも、またひとつ重要なポイントである。無論この二つの要素は互いに無関係のものではなく、成長を通して絆が深まることもあれば、絆を通して成長が描かれることも多々あるだろう。どちらかというと、この作品には後者の傾向があるものと思われる。ドラマチックな展開を求める人には少々地味なものに感じるかもしれないが、個性豊かなゆのはな町の住人たちの日々の交流を丁寧に描く一方でそこにゆのは姫という幻想的な設定を絡ませ、最後の別れのシーンを通して、彼女と町の人々との絆を感じさせてくれる。そういう意味で、非常にまとまりのある良い作品に仕上がっていると言えるだろう。


■ 参考作品
・『ゆのはな』 PULLTOP (2005)


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哲学、歴史、文学、評論等。アニメやエロゲ(美少女ゲーム)を切り口にして論じたものが多数あります。

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